私が専業トレーダーにならないもうひとつ大きな理由は、「目指すべきロールモデル」たりうる人物がいないことだ。


すばらしい技術を持っているトレーダーは数多く見てきたが、彼らのような生き方を目指したいとはついぞ思えなかった。

トレードは一人で完結させることのできる職業であるため、世界が内へ内へと閉じる圧力がかかり続ける。

これに抗しきれなければ独善的ドグマへ陥り、孤立化を深め、お金以外の他者とのつながりが断絶してしまう。

断絶した関係性の人間たちに囲まれ日々孤独に老いていく…そんな未来を誰が望むだろうか。


もし唯一のロールモデルがあるとすれば私の師匠だ。

当然彼も卓越したトレード技術を持っている。

しかし私が魅かれたのはそこではなく、彼が常に発していた「個人投資家を応援する」というメッセージの体現方法に対してだった。


同じようなメッセージを表層的に発している人間は多いが、やっていることはセミナーの開催や書籍出版程度にとどまる。(銘柄推奨など論外)

そして提供されるコンテンツのほとんどが言いっぱなしの自己満足に終始する。


本人たちも薄々気づいているとは思うが、そんなことで人間は変わりはしないのだ。

人間を変えるには、彼らを常時取りまく環境を、「仕組み」レベルで変えていかねばならない。


1990年代、私の師匠は日本の投資環境という大きな視点で、個人投資家を応援する仕組み作りに着手していく。