昔務めていた地方の中小企業に、心に狂気を宿した社長がいた。

彼はそれまで世の中になかったビジネスモデルを一代で築き上げたのだが、ご多分に漏れないワンマン経営者。


非生産性120%のミーティングに突然呼び出され、支離滅裂な話を延々と聞かされる。

社長の脳内デフラグ作業であるため、批判や反論はご法度。

ただうつむいて時が過ぎるのを待つ。


最悪だったのが、彼の奇想天外なアイデアのシミュレーションを依頼されたとき。

まだ彼のことをよく理解していなかったため、過去のデータから考えうるシナリオを複数用意し、パラメータを変えながら売り上げや利益予測を行うという、ごく普通の手順を踏んで資料を作成した。


どのシナリオにおいても収益を上げるのは難しいとの結論をそのまま社長にプレゼン。

理路整然と話を展開するのだが、徐々に社長の顔が赤らんでくる。


結論部に達した瞬間、アシュラ面怒りの形相で、

「こんなわけはない!数字が間違ごうとる!もう一度やり直せ!!」

と言い放ち、憤怒の足取りで会議室を去って行った。


自分はそれまで外部コンサル的な仕事をしてきた。

クライアントは例外なく歯に衣着せない形での課題の洗い出し、改善提案を好むものだった。

それは、外部の人間の威光を借りて社内を説得し、あるべき仕組みへの再構築が目的だったからだ。


だが、事業会社に入って初めて、正論を正面切って展開するだけが正道ではないと知る。


直属の上司から後処理を請け負うからと言われ、渋々ありもしない前提を置いて儲かるシミュレーションに仕立て上げ報告。

「せやろ!俺の言うた通りやろ!!」

社長は満面の笑みを浮かべてその破滅のアイデアにゴーサインを出した。


後日、上司が後処理のため方々を渡り歩いたのはいうまでもない。