今回のようなタスクを与えられた場合、多くの人間は自分が考えた仮説を確認する作業に入る。
再掲すると、“2ずつ増えていく3つの整数”という仮説を思いつき、その仮説に合致した数列を列挙する。
1 3 5
9 11 13
51 53 55
だが、実はもうひとつ仮説の有効性を確かめる方法がある。
それは、仮説に合致しない数字の並びを提示することだ。
これを“反証”と呼ぶ。
1 3 5と提示して、すぐさま自らの仮説の反証数列である1 3 6と提示する。
ルールを知る人は、1 3 6の並びにも○(ルールに合致する)を返してくる。
するとこの段階ですぐさま“2ずつ増えていく3つの整数”というルールは否認されることになる。
しかし、この反証を同時並行で進めていく者は極めて希である。
ルールを見いだす手立てとして非常に強力な武器である反証を人間は使いたがらない。
人間の概念形成に関する古典的な考察の中で、ブルーナーやグッドノーはこの人間の行動のクセを「確認する重複への渇き」と呼んだ。
人間はいったんある仮説を得ると、その正しさを確かめるために、何度も何度も重複的にテストし続けてしまうのだ。
前回のルール発見に戻ろう。
4 6 8 → ○
10 12 14 → ○
50 52 54 → ○
仮説:“2ずつ増えていく3つの偶数” → ×
1 3 5 → ○
9 11 13 → ○
51 53 55 → ○
仮説:“2ずつ増えていく3つの整数” → ×
3 6 9 → ○
5 10 15 → ○
100 200 300 → ○
仮説:“一定量ずつ増えていく3つの整数” → ×
このあたりで皆手詰まりとなる。
確認する重複への渇きを満たし続けることで、いつしか我々は“どのようなルールで増えるのか?”をひたすら考え続けるようになってしまう。
ここで大胆な反証が出来る希人なら、×(ルールに合致しない)を引き出すことを考える。
1 2 1
3 2 1
などと提示して、×(ルールに合致しない)を引き出すだろう。
1 2 1 → ×
3 2 1 → ×
もっと大胆な者であれば、乱数を提示して○と×の差異から帰納的にルールを導き出す。
これらの数列を並べて見れば、答えは“順番に増加する3つの整数”だと誰もがわかるはず。
実は増え方はどうでもいいのだ。
このシンプルなルールを反証無しに見いだすのは困難を極める。
我々システムトレーダーは、直感的に期待値が高いと考えられるトレーディングエッジの仮説を思いつき、その“正しさ”を検証する。
さらにトレーディングエッジを強化するファクターを探し続け、組み合わせ最適化をも駆使して右肩上がりのエクイティーカーブを実現する。
あなたはこの作業プロセスの中にきちんと反証を入れ込んでいるだろうか?
いつしか確認する重複への渇きを満たすためだけに、検証ツールの最適化ボタンを連打し続けてはいないだろうか?
他者から抜きんでるトレーディングエッジは、常人には困難な“反証できる自分”をその身に宿す者のみに舞い降りる。
長年かけて積み上げた仮説を完全に粉砕する大胆な反証を恐れるな。