「ファスト&スロー」ダニエル・カーネマン:利用可能性ヒューリスティック

「ファスト&スロー」ダニエル・カーネマン

積ん読状態だったダニエル・カーネマンの著書「ファスト&スロー」。

とりあえず序論に目を通しての気付きをば。
(配信中の教材で、落札者に気付き投稿を強力に促しているので、お手本(?)を見せる意味でも・・・。)


下記の問いを考えてみよう。

Kという文字を思い浮かべてみる。
Kは、単語の先頭にくるときと三番目にくるときでは、どちらが多いだろうか?


我々が単語を思い浮かべるとき、先頭の文字を指定されれば多くの単語を想起できるが、中間の文字を指定されてもなかなか思いつかない。


必然的に、Kが先頭にくる単語の方が、三番目にくる単語よりも多く想起される。

結果、Kは単語の先頭に来る方が、三番目にくるよりも多いと判断してしまう。


このように、思い出しやすさ、入手しやすさに判断が影響されることを「利用可能性ヒューリスティック」と呼ぶ。


会計を専門に勉強してきたトレーダーと、情報工学を専門に勉強してきたトレーダーでは、入手容易な情報は大きく異なる。


前者は自己資本比率やPBR、PER、企業の主要IRデータを容易に読み解けるため、演繹的なシナリオを組み立てて銘柄を選定する傾向が強い。

一方後者は、数理モデルの構築に主眼を置くため、ヒストリカルデータを用いて帰納的に構築したモデルのスコアで銘柄の優先度を評価する。


自分の強みを活かし、アクセスしやすい情報を用いて勝負する姿勢は間違っていない。

得意領域を徹底的に深掘りした後に辿り着ける、誰もが到達し得ない嗅覚は、そのトレーダーの宝だ。


しかし、概念拡張を旨とする自分にとっては「利用可能性ヒューリスティック」にはまることは厳に戒めたい。


数理モデルの中にファンダメンタルデータを組み込むだけでなく、定性的なテキストデータやビジュアルデータでさえ、今はモデル化できる時代である。

そういった時代の急激な変化のただ中で、いまだ株価のヒストリカルデータだけのモデル構築に留まることは、既に坂道を下り始めた人間の思考と言っていい。


自分の得意領域に留まるのは心地がいいし、同じ領域という学舎で仲間と語り合うのもまた楽しい。

だが、長年暖房の効いたその部屋に留まり続けた中年オヤジが、ゲームのルール変更で寒空に叩き出されたとき、それでも厳然とした姿勢を保てるかどうか。


自分には自信がない。

だから、常に自分から不得意な領域に踏み込み、恥をかき傷を負いながら学び続け、そして今日も表現を続ける。

そんな中年オヤジだからこそ、心ある多くのトレーダー達が惜しみなく力を貸してくれる今があるのだと思う。


まだ序論の30ページ足らずでトレーダーとしての姿勢に激烈な叱咤を加えるダニエル・カーネマン博士。

ノーベル経済学賞受賞者、恐るべし!