アンカー~数値による暗示~(1):調整プロセスと無意味な数値へのアンカーリング

「エベレストの山頂で水を湧かしたら、何度で沸騰しますか?」

この質問を投げかけられたとき、読者はどのように推論するだろうか。

義務教育を終えた者であれば、まず水の通常の沸点が100度であることを想起し、そこを起点に推論をスタートさせるだろう。


“通常”の意味が1気圧であることから、エベレストの山頂はそれよりも低いと考える。

気圧が下がると沸点も下がるだろうことは何となく覚えている。

したがって、100度マイナスαより、感覚的に99度から90度くらいの範囲に収まりそうだと結論づけるだろう。


いったん起点となるアンカーを定め、そのアンカーを起点に調整を加える。

心理学者のエイモス・トベルスキーは、人間が未知の数値を見積もるとき、アンカーリング+調整というヒューリスティックが働くと考えた。


上記のエベレストの推論プロセスは、通常の沸点100度にアンカーをかけるため合理的である。

しかし、我々人間にはまったく無意味な数値にアンカーリングされる特性がある。


カーネマンとエイモスは回転式の円盤に0から100の数値を書き、ひとつの円盤は10、もうひとつの円盤は65で止まるように仕掛けを施した。

オレゴン大学の学生を2つのグループに分け、ひとつのグループは10で止まった円盤を見てその数値をメモしてもらい、もうひとつのグループは65で止まった円盤を見てその数値をメモしてもらった。


その後、下記の2つの質問をした。

1.国連加盟国に占めるアフリカ諸国の比率は、あなたが今書いた数値よりも大きいですか、小さいですか?
2.国連加盟国に占めるアフリカ諸国の比率はどのくらいでしょうか?


すると、10を見せられメモしたグループは25%、65を見せられメモしたグループは45%と回答し、有意な差が見られたという。

アンカーリング効果と株式投資
出典:ファスト&スロー~あなたの意思はどのように決まるか?~ ダニエル・カーネマン著 村井章子訳