レスポンストレードの戦略を組み立てる感覚がだいぶ理解できてきた。
要素の質と独立性の担保、およびサプライズニュースを基点としてシナリオが始点となるのか終点となるのか、およびその強度に対する仮説立案。
このあたりを多角的、立体的に組み立てていければ、相当に堅牢な戦略が組めるだろう。
飲み込みの早い生徒は既に自分の想像を超える速度で成長しており、もう2、3週もすれば追い抜かれるのではないかという、嬉しくもあり危機感も感じるほどの状況だ。
その中でひとつ気になっている論点がある。
自分のような長年システムトレーダーが売買の絶対的根拠としている“期待値”との向き合い方だ。
システムトレーダーは期待値が正のエッジにベットし続け、試行回数を増やすことでプラス側に収益の額を収束させる。
期待値が負のシステムへのベットは、その思想からありえない。
例外的にシャープレシオを引き上げるために期待値がゼロ、あるいは多少の負のエッジにベットすることはあるかもしれない。
負の相関を持つシステムを組み合わせての累積損益の安定を目的として、あえて負の期待値のシステムを運用する。
だが、それはあくまでも補助的な役割であり、基本的には正の期待値へのベットが幹となる。
この思考のまま定性シナリオを軸としたレスポンストレードに臨むのは、いくばくかの問題をはらむ。
以前、自分が思いっきり担ぎ上げられて大損したSUMCOの公募増資がいい例だろう。
公募増資イベントは、その発表から値決め日まで売り有利の状況が続く。
イベントを軸としたシステムトレーダーなら誰もが知っている優位性だ。
この検証結果に依拠したトレーダーは、毎回発表日から値決め日まで売りのポジションを取る。
期待値を増すファクターを見つけているトレーダーであれば、銘柄を選別したりポジションの重みを変えたりするかもしれない。
だが、この売り有利な状況に買いで向かうシステムトレーダーは極小だろう。
何故なら、自らが検証した統計的優位性は常に売り有利に傾いているのだから。
買い向かう合理性はゼロだ。
しかし、である。
誰もが知る優位な期待値にベットし続けても、取れる利幅は現実的な範囲の収まってしまう。
いくらオリジナルファクターを駆使したとしても、定量的に検証可能なシステムであれば、早晩その超過収益は消滅するだろう。
では、どうするのか。
皆が売り有利だと信奉している状況で買いに向かえる例外を、シナリオによって探しに行くのだ。
SUMCOの事例などまさにそう。
1年に1度あるかないかの例外を、シナリオを組み立てることで見つけ出す。
システムトレーダーが大挙して売り浴びせている状況に、嬉々として買い向かう。
SUMCOの公募増資は、シナリオトレーダーからすると、あの状況での売りは絶対にない。
フルベット買いの一択だった。
システム構築以降思考を停止してしまったシステムトレーダー達の大量の売りが発生すればするほど、踏み上げもまた強烈。
たった一銘柄数時間のポジションで、シナリオトレーダー達はシステムトレーダー達の半年分の利益を稼ぎ出した。
システムトレーダーを長年続けてきた自分のような人間は、そうった思考へのパラダイム転換がなかなかできない。
統計的に不利にベットする(かのような)行為が、感覚的に許せないのだ。
SUMCOの事例は例外中の例外で、数をこなせば必ずいつか収益はプラスに傾くのだから、ひたすら我慢の一択だと。
さらに自分など大学院までパターン認識の研究を、卒業後はデータサイエンティストとしてコンサルティングの仕事に長年就いていたため尚更である。
“ごく少数の異常な挙動はノイズとして処理する”
積み上げてきたスキルとキャリアが、逆に思考の幅を狭くしている。
パラダイム転換のため、今は意図的に定量的な検証は一切やっていない。
とにかくイマジネーションの豊かさを求め、良質な素材を頭に放り込んで空想の世界に浸って、最後は直感で判断している。
思うようなパフォーマンスはまだついてきていない。
自分には無理なのではないかと不安になる日もある。
幸い自分にはシナリオトレードで前を走っているトレーダー達がいるので、解の存在を疑う必要はない。
それだけはとてもありがたいと感謝している。
本当の意味で概念を思いっきり拡張しパラダイムを転換させ、世界の見え方さえ変化させる。
そんな日の到来を信じて、ひたすら空想の世界と戯れよう!
錦の御旗“期待値有利“に弓を引く:期待値思考からの脱却は想像以上の苦痛を伴う
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