06.F・Bパズルで考える条件付確率(解答編)
では「フィッシャー・ブラックパズル」の解答を見てみましょう。

感覚的にはどちらを選んでも確率は“1/2”で変わらないような気がしますが、実際は明確に確率が異なります。ポイントは司会者がコインの入っているコップを“知っており”、“残った2つのコップ”から“必ず空のコップを開ける”ところで、そのことが確率を変化させるのです。(3つのコップから空のコップを取り除いた場合は”1/2”となります。)
最後の2つのコップから1つを選択するという断片的な状況からは、確率は“1/2”のような感覚に陥ってしまいますが、そこに至るまでのプロセスを的確に追っていくと確率の変化に気がつくと思います。
どうしても納得できない場合は、知人や家族に協力してもらって100回くらい同じ作業をやってみるといいでしょう。(実践はとても大事。)
『新・マーケットの魔術師』では、オプションを例に挙げてこのパズルとの関連性を示してあります。
「ブラック・ショールズ式で算出した割高なオプションを売ることは必ずしも有利ではない」ということがわかりやすく記述してあるので、オプションに限らずトレード技術を磨きたい人は是非読んでみてください。(ちなみにお気づきかもしれませんが、フィッシャー・ブラックとはブラック・ショールズ式の考案者の一人です。)
トレードにおいては、このパズルのような確率や期待値の変化が瞬間瞬間で起こっています。それこそ1ティック価格が変わっただけで、損益の期待値が正から負に変わることも日常茶飯事です。(わかりやすい例では、抵抗線や支持線を抜けたときなど。)
裁量トレーダーは経験則からその変化を瞬時に感じ取って、またシステムトレーダーは検証結果から変化の確信を得て、コップの選択(損切り、利益確定、ドテン、ツナギなど)をすばやく変えることができます。
あなたがもし確率や期待値の変化を捉える自分なりの技術を持っていると自信を持って言えないのならば、残念ながら彼らに日々、空のコップを気がつかないうちにそっと手渡されていることでしょう。
実社会においても目に見えないところで我々は搾取されています。税制しかり、保険/年金制度しかり、労働環境しかり‥。その搾取される側とする側とを分かつものは、見たまま感じたまま“反応”する人間なのか、それとも見えないものを見、感じ得ないものを感じた上で”判断”できる人間なのかの差だと思います。
そういった意味で、まずはトレードを通じ、相場の世界において確信を持った“判断”をできる領域に登りつめ、そして最終的には生活のあらゆるシーンにおいて自覚的にコインの入ったコップを選択し続けたいものです。