05.最大効用の獲得方法
損益の分散を大きくすることが人間を興奮状態に導くということをこれまでお話してきました。
ここで、前々回の分布を改めて観察すると、分散を大きくするには何も利益側の広がりを大きくすることだけでないことに気がつくと思います。
損失、すなわち負の裾野を大きくしたり、小数回で極端に負ける賭けを行うことでも分散は大きくなるのです。

ということは突き詰めると、破産、そして究極は死というものを負けた代償として支払うギャンブルを行ったとき、人間は人生最高の快感を感じることになるのでしょう。
ブラス側の広がりはどこまで行っても有限ですが、マイナス側の広がりは、命を賭ける以上その人個人にとっては計ることのできない無限の広がりを持つはずですから。
ということは、今回のテーマである“心理的効用の最大化”を真に達成するには、“ボラティリティをコントロールしない”という方針こそが答えとなります。
ギャンブル中毒に陥るということは、自分でコントロールが効かないくらいのボラティリティを求める状態になることと同義といえます。
そういう人達は当然のことながら手持ち資金はいづれ枯渇しますので、これまでと同様のボラティリティを得ようとすれば、多額の借金を積み上げることになります。そして、賭けるお金が尽きたそのとき、皮肉にも最高のボラティリティ(≒快感)を得るために命を賭けることになるのです。
最後に伝説の博徒“赤木しげる”の言葉を紹介します。
「もともと損得で勝負事などしていない。ただ勝った負けたをして、その結果無意味に人が死んだり不具になったりする…そっちの方が望ましい。その方が…バクチの本質であるところの…理不尽な死…その淵に近づける…、醍醐味だ。」