06.基礎分析の必要性とその目的
多くのシステムトレーダーは基礎分析のような今後すべての基盤となる作業を行わずに、いきなりトレードシステムを構築しはじめます。彼らなりにいろいろと言い分はあると思いますが、根底にある共通した理由はただひとつ、“面倒くさい”ということなのです。
たしかに経済学者野口悠紀雄氏が『「超」勉強法』の中で述べているように“基礎は面倒で面白くない”というのは至極もっともな話です。しかし、我々が小学生の頃に必ず行う“九九の暗記”や“漢字の書き取り”などは面倒だけれども、それがなければ偏微分方程式は解けないし『ノルウェイの森』も著されなかったでしょう。産業用ロボットの35%の世界シェアを誇る日本のものづくりの強さは、子供の頃に徹底的に叩き込まれた基礎能力に拠るところが多分にあると思います。
また直接的な話でいえば、売買する銘柄の特性をきちんと理解するということは、堅牢なシステムとは何かを知ることにもつながりますし、ひいてはドローダウンを更新していくようなつらい時期にしっかりと踏ん張れる力となるのです。
さて説教はこのくらいにして、基礎分析を行う目的は大きく2つ。
1.銘柄固有の特性の把握
2.トレードシステム構築のための基礎資料作成
1に関しては、自分がこれから長く付き合っていく銘柄の特性を深く自分の体にしみこませるイメージです。私の好きな齋藤孝氏の言葉を借りれば“くぐらせる”という言葉で表現できるでしょうか。
たとえば値幅の平均値や中央値を計算しておくことで、平均的な売買においてどの程度の収益機会(=価格変動リスク)が存在するのかを知ることができます。
また、その標準偏差を算出したりヒストグラムを描くことで、どの程度の値幅のぶれがあるのかをある程度実感として持っておけます。(値幅のように正規分布を仮定できない場合には、グラフを描いて「ビジュアル的」に特性を把握することが大切です。といいますか基礎分析やシステム構築などに関しては、あまり統計上の仮定を持ち込まない方が、素直に価格を見ることができるという意味でよいです。)
加えて、最大値、最小値を算出することで、日々の損益(特に損失)に関してどの程度の心理的、資金的な耐性を備える必要があるかを想定できます。 (ただし、未来は過去以上のことが起こるという前提も必要。)
2に関しては、文字通り基礎分析の結果から「期待値が正の仕掛け/手仕舞いのための条件」のヒントを得られることを期待しています。たとえば、曜日別に値幅に差があるとするならば、その差にあわせてポジションの増減を図るというアイデアもあるでしょう。また、終始差(終値-始値)が移動平均との関係によって大きく異なるならば、直接的にシステムとして使えるかもしれません。
小林よしのり風に上記のことをまとめると、
『一次資料の徹底検証によって歴史を正しく認識(基礎分析による過去の価格変動の把握)し、自分が確信を持てる未来の姿を志向(不確実性のともなう未来の価格変動においてもゆらぐことのない確信を持ったトレードシステムの構築)する。』
ということでしょうか。
これらの作業をやっているシステムトレーダーは、おそらくそう多くはないと思います。(私がかつて通っていたトレードスクールでも、基礎分析の宿題をきちんとこなせていたのは10人中2、3人程度でしたから。)だとすれば、基礎分析を行うこと自体が他のトレーダーに対する優位性となるかもしれません。(加えて手書きのチャートを書けばよりベターですが、それはまた後日。)