タートル流投資の魔術:アルゴ全盛時代におけるリチャード・デニスの思想の真価

未だに山積みになっている本をなにげに漁っていると、「タートル流投資の魔術」が見つかった。

リチャード・デニスが育てた伝説のトレーダー集団「タートルズ」の中でも白眉のパフォーマンスを残したカーティス・フェイスの著書である。


ある程度のスキルを持つトレーダーであれば、ここに書かれている内容は別段真新しいものではないだろう。

20日高値ブレイクでエントリー、その後上昇する度に一定のルールでポジションを積み増し、トレイリングストップでひたすら利益を伸ばす。

言葉にすればこの程度の内容だ。


だが、損益の出方は常人では耐えがたいものがある。


勝率は10%~20%で、10連敗、20連敗は当たり前。

出ては損切り、出ては損切りの日々が半年以上続くこともザラ。

そして、年に1、2度の強烈な上昇で利益の大半を稼ぎ出す。

タートル流投資の魔術 書評

実は今の自分の仕掛け、手仕舞いもそれに近いものがある。

高値圏でのブレイク後、あるいはブレイク前の銘柄に仕掛ける。

すっ高値で掴んで急落、損切りになり、正直げんなりすることも多い。


ただし、10銘柄中1、2銘柄が強烈に上昇するため、一定期間経過後はポートフォリオ全体としてプラス勘定になる。


多くのトレーダーは出来るだけ短期間で高勝率の安定した収益を望むし、それをトレードスタイルとして至高のものだと考え、実現に向けて邁進する。


だが、自分は常人には耐えがたい損益の出方を許容するメンタルを身につけたいと考えている。


安定した損益のシステムは今後、高精度のアルゴに侵食されていくだろう。

我々が考えている以上に、機械学習の進歩は凄まじいものがある。

既に将棋のアルゴリズムは羽生を超えていると言われ、2、3年後、人間の名人は100回やって100回負けるステージへと確実に入っていく。


トレードの世界は将棋と違い不完全情報ゲームであり、パラメータも将棋とは比べものにならないくらい多種多様ではある。

だが、それは人間と機械を分かつ決定的な要素ではなく、単純に計算量の桁が違うという問題でしかない。

囲碁ではまだ人間の方が強い理由と同じである。


手法レベルの人間の優位性は消え去る可能性が高く、少なくともわかりやすく安定した利益を生み出す優位性は徐々に浸食されていくはず。


となると、あとは常人の域を超えたメンタル勝負になってくるのではないだろうか。


高精度のアルゴでも、それを運用するのは人間であり、最後に実行ボタンを押すのもまた人間なのだ。

特に時間軸の長いトレードにおいては、たとえ99.99%大丈夫だと確信していても、巨大なロットを入れるとき、その手は震えるはず。


イエレン議長や黒田総裁の気まぐれで変化するシナリオを完全にモデルに織り込めない限り、100%はありえないのだから。


そんな時代の到来を想定し、常人が吐き気を催すような負け方を喫するトレードスタイルを試しているというわけ。


30年以上前のリチャード・デニスの思想が真価を発揮するのは、実はアルゴ全盛時代の幕が開けはじめた今なのかもしれない。