自分こそがシステム:現役データサイエンティスト流システムトレーダー考

システムトレーダー、舟を編む

将来の巨額資金運用を見据えたとき、今のアルファ偏重のトレードスタイルから、ベータにも大きくベットしていくスタイルへの移行が必要だと考えている。


そのため、日本の株式市場の上げ下げをこれまで以上に鋭敏に感じ取れるよう、説明力の高そうな指標を6つほど同時に観察している。

人間が同時に処理できる最大チャンク数が7、平均が5なので、5つがレギュラー、1つを入れ替え戦に出しながらベストな指標を選別する。


高精度な売買の判断をアウトプットするには、説明力の高いインプットデータと、それを適切に処理する関数の2つが必要になる。

その関数の要素のうち、システムトレーダーとして意識すべきことは、どの程度を機械に任せ、どの程度を己に内包させるかだ。


一般的なシステムトレーダーは、可能な限りの領域を機械に付託させたがる。

必要なデータを機械に放り込めば、どの銘柄をどのタイミングでどの程度売買すべきかを自動的に判断してくれる仕組み。

彼らはそれをトレードシステムと呼ぶ。


帰納的に導き出された関数は、当然インプットされたデータの範囲を超えて近似しえない。

学習のために使用されたデータ以外はこの世に存在しないものだとされる。


長年データサイエンティストとしてご飯を食べてきた自分には、そのモデル構築のあり方に強い違和感を禁じ得ない。


自分が入手可能なデータによって構築されたモデルは、クライアントとの折衝の中で、例外なく、かつ大胆に修正され洗練されていく。

現場責任者の利害や社内政治的な思惑も内包して探索するプロセスこそが、真に機能するモデルを生み出すのだ。


コンサルティングの現場では、人と人とが以心伝心で言外に交わされるデータが確実に、そして大量に存在する。

それらを鋭敏に感じ取り、先回りしてモデルに組み込み、プロジェクトの推進力にさえ変えていく。


データサイエンティストの仕事は、可視化された入手容易なデータをこねくり回し、今に最適化することではない。

常人には見えざるデータを収集、選択し、あるべき未来に最適化させていく者こそが一流のデータサイエンティストなのだ。


ならば、未来の不確実性のみが唯一の収益源たるシステムトレーダーのありようとは?

かつての仕事ぶりを思い出しながら、自分という関数を洗練させてくれるデータを見極め、触れ合い、対話する日々を大切にしたい。